「特区民泊」の施設数が全国の約9割を占め、インバウンドを支えてきた大阪市が、大きな転換期を迎えます。近隣住民からの苦情急増を受け、市は新規申請の受け付けを一時停止する方針を固め、同時に既存施設への指導強化に乗り出すことが明らかになりました。
全国9割が集中する大阪市で何が起きているのか
大阪市はこれまで、旅館業法よりも規制が緩い国家戦略特区制度の「特区民泊」(特定認定住宅宿泊事業)を積極的に導入してきました。その結果、2025年7月時点で施設数は6,600件を超え、全国の特区民泊施設の約94%が大阪市に集中するという異例の事態となっていました。
しかし、この急速な拡大が地域社会との摩擦を生んでいます。市に寄せられる苦情は年々増加し、昨年度は年間399件に上りました。主なトラブルは以下の通りです。
1泊滞在のルール違反(特区民泊は原則2泊3日以上の宿泊が必要)
ゴミの出し方問題
深夜の騒音やマナー違反
特に住宅地での生活環境への影響が深刻化し、行政の管理体制の限界も指摘されていました。
新規受付停止と「迷惑根絶チーム」発足
こうした背景を受け、大阪市は以下の二つの柱で規制を強化する方針を打ち出しました。
- 新規申請の受付停止
大阪市は、特区民泊の新規申請の受け付けを一時的に停止する方針を決定しました。正式な停止時期は今後、国との調整を経て決定される見込みですが、この報道を受けて、制度停止前の認定を目指す「駆け込み申請」が殺到し、行政の審査が遅延する状況も生まれています。 - 既存施設への指導体制強化
新規の流入を止めるだけでなく、既に営業している施設への管理も厳格化します。市は、迷惑行為やルール違反が疑われる施設を徹底的に指導するため、「迷惑民泊根絶チーム(仮称)」の立ち上げに着手。悪質な施設に対しては、立入調査や認定取り消しを含めた厳格な運用を行う方針です。
「量から質へ」市場は新たなフェーズへ
大阪府内でも、複数の市町村が特区民泊制度からの「離脱の意向」を示しており、府全体として制度の見直しが加速しています。吉村洋文大阪府知事も新規受付の一時停止を提言するなど、行政のトップが「量から質へ」の転換を求めています。
この規制強化は、宿泊市場に以下の影響をもたらすと予測されます。
市場の健全化:ルール違反の施設が淘汰され、住環境の改善が進む。
既存施設の価値向上:新規参入が止まることで、合法的に運営されている既存施設の希少価値が高まる。
ホテル・旅館への需要シフト:短期滞在需要が、旅館業法のホテルや旅館へ回帰する。
「日本一の民泊の街」は、これまでの「数」を追うモデルから、「地域との共存」と「質の高い運営」を重視するモデルへと舵を切ることになります。

